水が決めてのシャリ・レッスン
(特別編第3回)

【潤いのレシピ】すし㐂邑の木村康司さんが考える

有名シェフの素材への向き合い方を聞きながら、日々の食から暮らしに潤いを与えるようなレシピを朝・昼・晩と三食ご提案いただく連載企画【潤いのレシピ】。今回は、「特別編」として、すし㐂邑・木村康司さんによる「水が決めてのシャリ・レッスン」をお届けします。第3回目も前回に引き続き木村さんの水選びです。硬水・軟水と、アルカリ性・酸性、気にするべきはどのポイント!? シャリの食感、お酢の味わい、水選びでここまで変わります。

実習に移る前に、海外での水選びについて木村さんのお話を聞きましょう。コロナ禍以前は積極的に海外でのイベントにも参加されていた木村さんですが、海外ではお米、水、魚の調達はどうしているのですか?

「海外に行き初めた頃は、何から何まで持って行っていたんですが、最近はお酢と包丁だけ持っていき、あとは現地の水、米、食材で勝負します。米を持っていくと、『それは美味しくできて当たり前でしょ』と思われるんです。なので、スーパーで普通に売っているお米を買ってきて、調整しながら炊いていくんですね。そうすると、本当にあの食材で?とすごく喜ばれますね」

魚を熟成するための十分な時間もとれません。
「現地の魚をどれだけ色々な仕事で提供するかというところに考えをシフトしますね。生の魚を4日後とかに出したりします。そうすると、『4日後の魚なんて』と言われるんですが、食べると『ワオ』となる。面白いです」

水選びも、基本的には現地のセレクト任せというから驚きです。
「現地の人になんでもいいよと伝えて、それが軟水か硬水かも分からない状態で一度炊いてしまいます。その結果を見て浸漬時間や水分量や温度を調整します。ただ、この調整も3回くらいでやらないと、向こうの料理人も『ヘイヘイどうした』という感じになるので(笑)、そこは短時間でバチっと決めます」

シビアな条件下でも、提供するのは「すし㐂邑」らしさが出る世界観と味。揺るぎない技術力とプレゼンテーション力が、世界中のフーディ―が同店を目指す人が絶えない所以でしょう。

さて、実習に戻りましょう。今回は、3種類の水でシャリを炊き分けています。

  1. 世田谷の水道水 硬度72(中程度の軟水) pH7.0(中性)
  2. 硬度を変えた浄水 硬度36(軟水) pH7.0(中性)
  3. 岩手・遠野の湧き水を水質検査し、近似条件にpHを調整した水 硬度72(中程度の軟水) pH8.0(弱アルカリ性)

前回は硬度違いの①(水道水)と②(軟水)でシャリを作りました。今回はpH違いの①(水道水)と③(アルカリ水)を比べてみましょう。

まずは大前提として、水のpHは、硬度のように全国各地で異なるのでしょうか?
「違いはありますが、基本的に水道水になった時点で中性に水道局が調整をしています」とクリンスイの担当者。

最近よくアルカリイオン水が体にいいと聞きますが、アルカリ水の特徴は何でしょうか?

「アルカリ水は紅茶の発色が良くなる、ごはんの炊き上がりがふっくらする、パスタの食感がモチモチするなど、料理の幅を広げます。だしが出やすいともいわれています。またアルカリイオン水は機能水といわれていて、胃腸の調子が良くなるとのことですね。ただpHが高すぎる(アルカリ性に偏りすぎる)と体に負担をかけてしまいます。」(クリンスイ担当者)

同じ条件で米を炊きます。炊きあがって合わせ酢を混ぜる木村さん、今のところ触感としてはいかがでしょうか?

「③(アルカリ水)は①(水道水)と同じく、パラパラとほぐれますね。このパラパラ感が大事で、シャリがダマになってしまうと、ほぐすのに時間がかかる。そうして混ぜすぎるうちに粘りが出てしまう。うちの米はシャリを切る手数が少なく済むため、粘りが出てきにくいんです」

ところが炊き上がりを味見すると、①(水道水)と③(アルカリ水)に違いがありました。

「硬さは①(水道水)と③(アルカリ水)に違いがありませんが、酸の出方が違う。①(水道水)は酢が表面をコーティングしているような感じで尖った酸の印象があるのですが、③(アルカリ水)は酢の感じ方が少し丸いですね。③(アルカリ水)はこの状態で既にかなりいい状態です。30分後どうなるか、楽しみです」

そして30分後。③(アルカリ水)を試食した木村さん、思わず「う~ん!」と唸り声をあげました。
「③(アルカリ水)は全体的な印象がとても柔らかくなりました。面白いのが、口に入れた瞬間は酸の出方がまろやかで、アタックが柔らかいのですが、余韻が長い。さらにアフターに従って徐々に酸が立っていく。これは面白い! 食感はもう少し立たせたいので、浸水時間を減らすと大いに可能性がありますね」

シャリに酸の伸びがあるということは、自身の熟成すしを引き立たせるポテンシャルを大いに秘めている、と木村さん。
「それを体感していただくために、ひとつ握りましょう」

「すし㐂邑」を代表するネタのひとつ、マカジキ。50日熟成。
マカジキのねっとりとした食感と噛みしめるたびに出てくる旨みは、咀嚼を重ねるうちに米とまじりあい、徐々に酢の旨みと酸味が渾然とまじりあっていく。この口内調理の妙がすしの真骨頂だ。シャリのみの味とは別次元の味わいが、そこには生まれている。

「そう、ネタとシャリが合わさったこの地点をイメージして設計するんです。粘性が強いシャリだと、ねっとりしたネタにさらに『ねっとり』が重なって単調になってしまいます。③のように、余韻が長くシャリを引っ張ってくれる水に可能性を感じるというのは、こうした理由です」

ところで、「すし㐂邑」には車海老も赤貝もないといいます。
「どちらも、うちのシャリとのバランスが悪いからというのが理由です。赤貝は香りのネタであって甘みがすくないので、うちの甘みのないシャリと合わせると尖った塩味と酸味を感じるだけになってしまいます。その代わり、うちはトリガイやボタンエビなど、甘みの強いネタで勝負する。そうした特徴を持ちながら、自分自身のオールラウンダーとしてのシャリを作るのが大事です。そうした意味で、水を変えることで酸の伸びのあるシャリが作れる可能性というのは、僕にとって非常に大きなこと。食感も理想に近づけるよう、何度か調整をしてみます」

数日後、木村さんからメッセージが届きました。
「ほんの少し、米の浸水時間を調整して、理想の状態になりました!」
すし㐂邑のシャリ、水選びでさらに進化中です。

木村康司

祖父の店や叔父の店で修業後、天ぷらの名店[美かさ]に入門。天ぷら独特の水を使わない魚の仕込みや、仕入れを学ぶ。33歳で現在の[すし㐂邑]をオープン。長年の研究を重ね、“熟成鮨”という新ジャンルを確立し絶大な人気を誇る。

CREDIT

  • Photography by Kenta Yoshizawa
  • Text by Reiko Kakimoto
  • Edit by Shunpei Narita

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今回の実験では、硬度を変えるプロセスにおいて、『和⾷のためのクリンスイ』を、アルカリ⽔をつくる際には『アルカリイオン整⽔器』を使⽤しました。



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